預貯金神話は富国強兵の名残り

日本では預貯金神話が強く、投資する人が少ないと言われている。

たしかに、近年は少しづつ状況が動いてきているように見えるが、基本的には変わっていない。

何故か。

元々は明治政府が軍資金を調達するために国民に質素倹約と同時に郵便貯金を推奨したことが始まりであり、

その後、大戦後の高度成長からバブル期まで高金利が長く続いたことにより決定的となった。

この時に刷り込まれた「貯金は正しい」という意識が現在まで続いている。

幕末から明治期は、

とにかく列強に対抗することが必要であり、富国強兵が絶対の価値観であった。

個人がそこに逆らった生き方をすることは事実上不可能に近い状況だったと思われる。

一度でも戦争に負ければ植民地になってしまうという切羽詰まった状況の中、

国力を集中させ、一丸となって外敵を討ち払うという明確な目的意識に支配されていた。

国民のベクトルがほぼ一つにまとまっていた時代と言える。

こうした時代背景において、質素倹約、滅私奉公なども絶対の美徳とされ、

「一致団結の精神と民族特有の美徳こそが日本人の根本精神。」と思い込むことによって、

不安定になっていた民族としてのアイデンティティを変質強化する働きがあったと思われる。

個人レベルでは疑問や不安を感じながらも、

昂揚する集団意識の中で盲目的に突き進むしかなくなっていたのが当時の日本である。

大東亜戦争に敗れることによって、その幻想は木っ端みじんに打ち砕かれたのだが、

その後に訪れた高度な経済成長を国全体で体感することによって、

「戦争には負けたけども、やはり日本人は優秀であり、質素倹約、滅私奉公といった価値観もたいへんに優れたものである。」という、

慰めとともに、やはり狂信的な戦前の思い込みが復活し、

それが日本の伝統的なものであるとして強化されてきたと思われる。

この国では「預貯金は絶対に正しい。」と言われたら、そこに逆らうのは意外と難しい。

預貯金神話は、やがて「投資は怪しからん」という発想にまで飛躍することになる。

「集団を出し抜き、自分だけ楽をして稼ぐのは怪しからん。」と言うのが日本社会の現実である。

だから学校でも預貯金を推奨し、投資については触れようともしない。

お金について学ぶどころかわざわざ目を背けて歩き、知ろうとするだけで白い目で見られる。

預貯金神話の呪縛は、日本人の歪んだアイデンティティと密接に関連している。

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