預貯金神話は富国強兵の名残り

日本では預貯金神話が強すぎて投資がほとんどなされないと言われている。近年は少しづつ状況が動いてきているように見えるが、基本的には変わっていない。

何故か。

元々は明治政府が戦争のための資金を調達するために国民に質素倹約と同時に郵便貯金を推奨したことが始まりであり、

その後、大戦後の高度成長からバブル期まで高金利が長く続いたことで決定的となった。

この時に刷り込まれた「貯金は正しい」という意識が現在まで続いているのだと思う。

幕末から明治期は、

とにかく列強に対抗することが必要であり、富国強兵が国内絶対の価値観であった。個人がそこに逆らった生き方をすることは非常に困難だったはずである。

一度でも戦争に負ければ植民地になってしまうという切羽詰まった状況の中、

国力を集中させ、一丸となって外敵を討ち払うという明確な目的意識がそこにはあった。

国民のベクトルがほぼ一つにまとまっていた時代と言える。

こうした時代環境において、質素倹約、滅私奉公なども絶対の美徳とされた。

この話は日本人のアイデンティティと関連するのだが、

維新後に士農工商の身分制度が解体されたが、当時の庶民は260年以上も続いた封建的な社会を相当に引きずっていたはずである。

身分に縛られることから解放され自由を手に入れたと同時に、社会的地位が不安定になり落ち着かないと感じていた庶民も多かった。

集団内における安定した立ち位置、居場所を渇望していた当時の日本人にとって、富国強兵とそれに付随する価値観は渡りに船だったのではないか。

激動の時代のただ中にいる当時の庶民にとって、非常に大きな安心感となったに違いない。

同時に、

「一致団結の精神と特有の美徳こそが日本人の根本精神」であると思い込むことによって、不安定になっていた民族としてのアイデンティティを変質強化する働きもあったと思われる。

個人レベルでは疑問や不安を感じながらも、昂揚する集団意識の中で盲目的に突き進むしかなくなっていたのが当時の日本である。

絶対に正義で不敗の神国であるという狂信的な精神で臨んだ大東亜戦争に敗れることによって、その幻想は木っ端みじんに打ち砕かれたのだが、

その後に訪れた高度な経済成長を国全体で体感することによって、「戦争には負けたけども、やはり日本人は優秀であり、質素倹約、滅私奉公といった価値観もたいへんに優れたものである」という、慰めのようにも見えるが、やはり狂信的な戦前の思い込みが復活し、かえってそれが日本の伝統的なものであるとして強化されるようになったと思われる。

ずいぶんと大げさな言い回しになったが、こうした流れの中の現代の預貯金神話だと思っている。

こうした神話を信じ込むタイプは、自らのアイデンティティを戦前の日本の姿に求めている。

彼らは、戦前の日本の姿を唯一のよりどころとすることでしか誇りを見出すことができない。だから必然的に個人の人権よりも集団の論理を優先している。

個人的な意見は必要のないものとみなしているので、教育においても子ども時分からその自発性を摘み取り、権力に従順な奴隷を養成することが目的となっている。

こうした思想を個人的に信奉するだけならまだよいが、日本人としての絶対必要な道徳であるとして全員にその価値観を押しつけてくる。そうしないと国体が保てないというのが彼らの言い分だ。

こうした考え方が集団を支配してきた場合、個人では対抗することは難しい。

かなり大げさな前置きになったが、

この国では「預貯金は絶対に正しい」と言われたら、それに対抗するのは意外と難しいのだ。

この預貯金神話は、やがて「投資は怪しからん」という発想にまで飛躍することになる。

「集団を出し抜いて自分だけ楽をして稼ぐのは怪しからん」と言うのが日本の社会の現実である。

だから学校でも預貯金を推奨し、投資については触れようとしない。

日本ではお金について学ぶどころかわざわざ目を背けて歩き、もっとも基本的なことさえ知らない。知ろうとすると白い目で見られる。

これでも日本は民主的な資本主義国家だと言えるだろうか。

預貯金神話の呪縛は、日本人の歪んだアイデンティティと密接に関連している。

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