私は「凄い。」という言葉が苦手である。

美しい景色や珍しい自然現象、スポーツにおける突発的なスーパープレーなどに対しては率直に「凄い。」と思うのだが、

大きな成果をあげた人や優れた技能を持つ人などを指して「凄い」を連発するのは、違和感を覚えることがある、、のだ。

「凄い!」を繰り返し口にする人の姿を見るのがあまり好きではないし、
自分が言われると、馬鹿にされているように感じることさえある。

私の性格が歪んでいるのかもしれない(笑)

私が違和感を覚えるのは、

「凄い」と評される実績やスキルは、その人の持つ才能やチャンスを順当に生かした当然の産物であり、本来はごく当たり前のことと思うからだ。

当たり前であろうがなかろうが、凄いものは凄いのだから、別にいいはずだが、

「本来当たり前のことを、わざわざ特別なことにしたくない。」と、

そんな気持ちも少なからず湧いてくるのだ。

尋常ではない努力をしたとか、元々特種な才能に恵まれているとか、

たしかにそのとおりかもしれないが、

そういったことをことさらに強調することで、どんなことが起きるかについても考えてしまう。

言う側がどんな意図をもって言っているのかも気になってくる。

ここで私の頭に浮かんでくるのは「差別の意識」である。

「できる」を強調することによって、「できない」との「差」が生まれる。

そこに差別の意識が底流していることが少なくないと感じるのは私だけだろうか。

賞賛された者は、多くの無名の人を踏み台にした優越感に浸り、
賞賛する者は、成功者との関係性を誇っている。

こんな風に見えることがある。

そのように感じた時、私は、どうにも気持ち悪くなってしまうのだ。

こう言うと私が何かに嫉妬しているみたいだが、

優れたもの、価値のあるものを必要以上に持ち上げることによって、

平凡でも地道な努力を続けてきた多くの人の心が傷つき、

そこから個人や集合体が活力を失っていくのを、私はいくつも見てきた。

誇らしげに自己顕示欲を満たす者がいる一方、その脇で自身の無価値観に包まれてしまっている者がいる。

こうした状況をわざわざ突きつけられるのが、私は苦痛なのだ。

いいものを健康的に受けとめ、その良さを素直な気持ちで共有しあうのなら良いのだが、

必要以上に特別視、差別化され、

せっかくの良いものが、私たちの身近で平凡な日常から切り離されてしまうとしたら、とてもつまらないことだと思う。

私にも少しだけ得意なことがあったりして、「凄い」を連呼されることがあるが、

「だからなんだというのだ。」、「そんなことを繰り返し言ってどうするつもりなのか。」などと思うことがある。

私が望むのは、一人一人が持って生まれた才能を伸び伸びと発揮することであり、

自分自身も後悔のないように、取り組むべきことに取り組んでいきたいと思っている。

そうした生きる姿勢こそが大切だと、私はそう思っていて、

同じような気持ちでいる仲間が増えたらいいなと思っている。

そうした気持ちが理解されず、たまたま生み出されたものばかりを賞賛されると、かえって鬱陶しくなってくるのだ。

適当におだてることしか考えてないのが透けて見える場合は、

褒められているどころか、馬鹿にされるような気持になってくる。あまりしつこく繰り返し言われているうちに少し不機嫌になったことさえある。

「凄い。」を連発するタイプの人とは、物事全般にかかる認識の仕方が違っているように感じることがある。

これは私の感じ方のクセの話であり、

「凄い。」という言葉そのものに問題があるわけでも、「凄い。」を連発する人が悪いわけでもない。

凄いモノは凄いのだから、凄いと思った時は「凄い。」と言えばいい。

実際、私も「凄い。」と言うことはある。

私が気になるのは、

「凄い。」という言葉を使う時、その言葉の使い手が自身の自己承認欲求、感情とどう向き合っているかである。

現代は自己承認欲求の強い人が多い。

周囲とうまくやっていくため、「凄い」という言葉を使うことによりその場の空気を和やかにしようと考える場面は少なくない。

今の私はそうした場面に遭遇するのが苦手、ということだ。

もちろん誰であれ、自己承認欲求が満たされなければ精神のバランスを崩す可能性がある。

自己承認欲求を満たすことは大切だ。

だが、私が考える「健康的な自己承認欲求」は、

他者からもらうものではなく、「一人一人が日常の中で、自己の中でごく自然に満たされるもの。」だと思っている。

もちろん他者からもらうエネルギーにも価値はあるのだが、

他者からの賞賛に依存したり、過剰な賞賛を噴射続ける態度は違うと感じている。

こうしたことは私の個人的な感じ方であり、誰に押しつけるつもりもないが、

中には同じような気持ちでいる人もいるのではないか。