今日は月に一度のアイヌ語勉強会。

60分の枠でアイヌ語の数について話してきた。

まずは、1から10まで。

  • 1 シネ
  • 2 トゥ
  • 3 レ
  • 4 イネ
  • 5 アシクネ
  • 6 イワン
  • 7 アラワン
  • 8 トゥペサン
  • 9 シネペサン
  • 10   ワン

これを一気に覚えるのは簡単ではない。

見た目には5あたりから単語が長くなり、呼び方が複雑になっているが、

1から5までを覚えてしまえば、

あとは「10からいくつ減るか。」という表現になっている。

金田一京助も、

アイヌ語には、1,2,3,4,5を表す独立の数詞だけがあって、6,7,8,9,10を表す独立の数詞はない。」と言っている。

  • 1 シネ
  • 2 トゥ
  • 3 レ
  • 4 イネ

ここまで(1〜4)は慣れで覚える。

「イチ、ニ、サン」、「アン、ドゥ、トロワ」と同じで、「シネ、トゥ、レ、イネ、、」と繰り返し、音とリズムを体に染み込ませる。

面白いのは、5の「アシクネ」。

アシクネは、「手」を意味する「アシヶ」に由来する。

手には5本の指があるので、5を「アシクネ」と言う。

要するに、5は「片手の指の数」なのだ。

ちなみに、指のことを「アシヶペッ」(アシケ=手、ペッ=裂片)と言う。

人差し指は「イタンキケムアシヶペッ」(イタンキ=お椀、ケム=舐める、アシケペッ=指)。

子ども時代に、お椀にこびりついた残り汁などを人差し指を使って舐めたことを思い出す。

ここまで、1から5までで、

日常生活に直面するほとんどのことはカバーできていたはずであり、

それ以上の6から20くらいまでは「少し多めの数」という意識があったのではないか。

と、思う。

5が「片手の指の数」と言うのなら、

10は「両手の指の数」となる。

10のことを「ワン」と言う。

元々は「ウアン」(ウ=両方(=両手)アン=ある」であったと思われる。

実際に物の数を数える時には、「1つ、2つ、3つ…」と数えるが、

これをアイヌ語では「シネプ、トゥプ、レプ、イネプ、アシクネプ、イワンペ、アラワンペ、トゥペサンペ、シネペサンペ、ワンペ」と言う。

1から5までは語尾に「プ」がつき、6から10までは語尾に「ペ」がつく。

あとは、

6から9は「10からいくつ減るか。」という表現でしかない。


6: イワン   i(ine)-wan で 10-4
7: アㇻワン  ar-wan で 10-3
8: トゥペサン tupe-san で 10-2
9: シネペサン sinepe-san で 10-1

イワンは「イネワン」(イネ=4、ワン=10)。10から4下がる数、「6」を指す。

アラワン(アラ(レ)=3、ワン=10)は10から3下がる数、「7」。

トゥペサン(トゥペ=2つ、サン=下がる)は10から2つ下がる数、「8」。

シネペサン(シネペ=1つ、サン=下がる)は10から1つ下がる数、「9」。

11以上の数はまたの機会に。

☆ 数を使った表現例

一年のことをシネパ(シネ=1,パ=年)、一日はシネト(シネ=1、ト=日)、2回はトゥ スィ(トゥ=2,スィ=回)、3個の石はレスマ(レ=3、スマ=石)、四匹の猫をイネチャペ(イネ=4、チャペ=猫)などと言う。

☆ 6という数字

アイヌ民族にとって「6」という数字は特別である。

カムイノミなどでカムイに捧げられる酒や供物は、きちんとカムイに届けられた時には人間界の6倍になると言われている。

また、アイヌ民族にはたくさんのなぞなぞ遊びが伝えられているが、6が出てくる場面も多い。

例として3つほどあげてみる。

◯六つの村を越えて声の聞こえるものは何?(イワン コタン カマ ハウェヘ ア ヌ プ ヘマンタ アン?)

→カッコク(カッコウ)※カッコウは何かを知らせるために鳴くと言われている。

◯六つの村を飛び越えてヒゲをなびかせるものは何?(イワン コタン カマ レキヒ スウィ プ ヘマンタ ネ ヤ?)

→イナウ(木幣)

◯六つの爪を持って村から村を歩くのは何?(イワン アㇺ コㇿ ワ コタン オケレ ㇷ゚ ヘマンタ アン?)

→ストゥケレ(ワラジ)※葡萄ヅルで編み込まれたワラジには指の数より多い出っ張り(爪)があると言う意味。

「イワン コタン カマ」(6つの村を飛び越えて)と言うのは慣用句になっている。

☆ アイヌ勘定

長い差別の歴史の中で、アイヌ民族は無知蒙昧(むちもうまい)呼ばわりされてきた。

例えば、アイヌ勘定の話。

取引で10匹の鮭を数える時、最初に「はじまり!」と言い鮭を一匹取り出し、

続いて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、と掛け声の度に一匹ずつ取り出してから、最後に「おしまい!」などと言い、鮭をさらに一匹加える。

こうして、鮭10匹の約束で12匹の鮭を取られたりしていたと聞く。

アイヌは数がわからないからこうしたことが繰り返されてきたと。

完全にアイヌをバカにした話である。

当たり前のことだが、アイヌ民族が知的に劣っていることなどない。

だが、鮭であれば輸送中に腐ってしまったりすることもあり、

そこを見越し、目的地に到着した時に必要数を下回ることがないよう、

少し多めに取り引きしていたはずである。

そこは、買い手の側が多めに買えば済むことなのだが、

時にはアイヌの方から少しサービスしたこともあったかもしれない。

そうこうしているうちに、しだいにアイヌと和人との間の力関係、平等性が失われ、

差別が酷くなり、アイヌにとって不利な条件をどんどん押しつけられていったような気がする。

過去の話に聞こえるかもしれないが、

深く傷ついてきた人は多い。

差別はまだ終わっていない。