アイヌ民族の住居のことをチセ(チ=私たち、セッ=寝床)と言う。

現在はチセに居住している人はいないようだが、平取や白老、旭川、阿寒湖などに行けば展示用のチセを見ることができる。

当たり前のことだが、

チセを建てる場所を決めるに当たっては、近くに水があり、大雨などに遭っても水没しないことが条件となる。

川(ペッ)からそう遠くない場所に建てられることが多く、

チセのペンケ(川上)側にヌサ(祭壇)が設けられ、

チセの中心にはアペオイ(囲炉裏)が置かれている。

チセの内部構造はどこの地方でもほぼ統一されている。

アペオイにはアペフチカムイ(アペ=火、フチ=おばあさん、カムイ=神)という老婆の姿をした神が常に鎮座していると考えられており、

アペオイとヌサを結ぶようにしてロルンプヤラ(ロロ=上座、ウン=〜への、プヤラ=窓)と言う神窓が開けられている。

このアペオイからヌサを結ぶラインは神々の通り道とされ、

ロルンプヤラの外側からチセの中を覗き込んだり、無闇やたらと通り道を横切ったりするものではないとされている。

アペオイの火種はチセの真ん中で絶えることなく息づいているから、

火は、

アペフチは、

家のことやそこに住む家族のことを何でも知っているとされている。

家に住む者はそれぞれが火と常に向き合うことになる。

火を見ながら自問自答することもあれば、火に宿るアペフチに直接話しかけることもある。

様々な悩みや率直な思いなどについて、アペフチと語り合う。

アペフチと対話し続けることにより、アペフチがカムイモシリ(神の国)のカムイたち(神々)に必要なことを伝言してくれるとも考えていた。

だから、チセを作る前にはまずヌサを立てる場所にめぼしをつけ、次にアペオイの場所をイメージする。

イメージができたら、そこでカムイノミ(祈りの儀式)を行い、

数日の間、夢の中で神々の声を聞く。

神々からのゴーサインが出たら、チセを建てるのに相応しい場所というお墨付きを得たことになり、

そこからチセの建設が始まる。

時には何らかの理由で神々から異議が伝えられることもあり、その時は違う場所を探すと言う。

ロルンプヤラの反対側にはチセの出入口がある。

出入口のことをアイヌ語でアパと言うが、

出入口を含む玄関ホールのような場所をセマパ(セム=物置、アパ=出入口)とも呼ぶ。

セマパは外仕事で使う道具などを置く物置(セム)としての機能と出入口を兼ねており、現代の風除室のような役割がある。

チセの中はセマパを除くと、長方形の広い居間だけがある。内部は基本的に区切られたりはしていない。

真ん中にはアペオイがあり、その奥にロルンプヤラがある。

仮にロルンプヤラが東面だとすると、南面の壁に窓が二つある。

ロルンプヤラ寄りの南面の窓はイトムンプヤラ(イトム=光、ウン=〜への、プヤラ=窓)と呼ばれ、文字通り陽の光を室内に採り入れるための窓である。

もう一つ、南面のセマパ寄りの窓はヌプキクタプヤラ(ヌプキ=濁り水、クタ=捨てる、プヤラ=窓)と言う。

これは炊事でできた濁り水などを外に出すための窓と言われている。

北面の壁には窓がない。

北東側の壁には祈りの儀式などで使う道具や宝物などが大切に並べられている。

チセの主人はシソ(シ=本当の、ソ=床)と呼ばれる場所に座り、客人はハラキソ(ハラキ=左、ソ=床)に座る。

床のことをソと言うが、滝のこともソと言う。

道央の空知地方の空知はアイヌ語のソラプチ(ソ=滝、ラプチ=落ちるところ)からきている。

チセの屋根をチセキタイ(チセ=家、キタイ=頂上)、山頂をヌプリキタイ(ヌプリ=山、キタイ=頂上)と言う。

平取や白老、阿寒湖などのチセはカヤで作られているが、旭川などではササが使われることが多い。

その地で入手しやすいものが使われている。

私は、カヤやササに染み込んだチセ独特の煙のにおいが好きである。

今日はここまで。