今日は道内公立高校の入学試験日だ。
35年前の春、私は公立高校の入試に失敗した。
今、その時のことを思い出している。
当時の心境は、
- 試験会場に入る前から強い違和感を覚えた(合格したいと思わなかった。)。
- とにかく気分と体調が悪い(38度くらいの発熱。)。
- 試験問題を見る前からまったくやる気がない。
こんな感じであった。
あの日の憂鬱な気分は一生忘れないと思う。
倍率は1.0倍で、450人が合格し21人が不合格となる入学試験だった。
いつもどおり平常心で臨めば問題ないと周りからは思われていたと思う。
だが私には、試験日の数日前から「自分は不合格になる。」という予感みたいなものがあった。
何故こんな気持ちになっていたのだろうか。
自分で進路を選択したのではなく、「周りの大人から勝手に押しつけられた」という感覚が強かったからだと、私は思っている。
他人のせいにしたいわけではないが、当時中学生の私にはどうすることもできなかった。
そもそも高校のことなど何も知らない。明確にやりたいことがあるわけでもない。
そんな中で、学校と親から勝手に進路を決められたのである。
現実的に考えて仕方ないし、当時としては当たり前のことなのだが、
当時の私は、多感で不安定な中学生の心の動きを無視し続ける大人たちに不信感を持っていたのだ。
子どもの気持ちを汲み取り、的確なアドバイスをしてくれる大人は周囲に一人もいないと感じていた。
私が気づけなかっただけで、気にかけてくれていた大人や友人もいたとは思うが、
とにかく当時の私は、
テストの点数、成績だけで機械的に輪切りにされ、進路まで勝手に決められてしまったことに傷つき、腹を立てていたのだと思う。
受験制度そのものに対しても激しい拒絶反応を起こしていた。
不合格を確信していながら、どう振る舞ったらいいかわからない私は、家族や友人、教師の前では平静を装っていた。
合格発表を見に行くつもりはなかったのだが、友人たちに誘われるまま、私も合格発表の会場に行った。
何故行ったのか自分でもよくわからない。
自分の番号が無いことを確認して、黙って友人たちの集団から離れた。
予期していたことではあったが、この現実を受けとめることは簡単ではなかった。
周りの景色が突然色を失い、音も聞こえない。白黒の無声映画の中にいるような感じがしていた。
キオスクで週刊ベースボールを買い、時間をかけて帰宅した記憶がある。
西武に移籍する田尾と、大リーグに挑戦している江夏の記事を何度も繰り返し読んでいた。
帰宅後も一人でいた。布団の中でいつまでも考え事ばかりしていた。
私の他にも公立高校の受験に失敗した友人が何人かいたが、
彼らは滑り止めの私立高校を受験しており、不本意であったとしても進学先は確保されている。
だが自分は私立高校を受験していない。どこにも行く場所がない。
高校浪人するのか。高校浪人とはどういうものなのか。他に道はあるのか。等々。
生まれて初めて深刻になった。初めて難しいことを考えていたような気がする。
布団の中にいる間に、親のところに中学校から連絡が来ていたらしい。
どんな気持ちでいたかあまり覚えていないが、タバコの煙で真っ白の職員室に行った。
職員室には教頭先生と担任の先生の他、数人の先生がいた。
職員室でどんなやり取りをしたかあまり覚えていないが、私は某私立高校の面接を受けることになった。
全く考えてなかった展開であり、事態をすぐにはのみ込めなかった。
だが、一番信頼していた先生が熱心に動いてくれていたと聞いた瞬間、
なんだか温かい気持ちになったことを覚えている。
これは運命で、そんなに悪いことではないのだと感じていた。
面接を受けた私は、無事に高校に行くことができた。
入学式の日、初めて入った教室の雰囲気はとにかく暗くて重かった。
男子校だということもあるだろうか。学校全体が真っ暗で、お互いの顔を見ようとしても見えないくらい暗く感じていた。
私と同じように第一志望の受験に失敗したのがほとんどで、
その多くが意気消沈したまま入学式を迎えていたのだと思う。

だが不思議と違和感はなかった。先輩たちの歌う独特の曲調の校歌もなんとなく好きになり、
2日目からは新しい仲間たちとの時間がとても楽しく、この学校で良かったと思ったことを覚えている。
勉強に集中したわけではないので、大学受験時に苦労はしたが、
高校受験失敗という試練を乗り越えてきた経験が生きていたと思う。
高校のクラスメイトは、今でも大切な仲間である。
大泉洋も大学受験に失敗しているが、それがその後の彼の人生を変えているように見える。
不自然なことは、やろうとしてもできないものだ。
どの道やりたいこと、やるべきことに導かれる運命なのだと思う。
今春は私にとって35年ぶりとも言える大きな節目となるが、運命の流れみたいなものを感じている。
人生に失敗などないと思う。