正月の風物詩、箱根駅伝を見ている。各校がその名をかけてしのぎを削り、意地と意地とが激しくぶつかり合う。やがて伝統校がその舞台を支配し、最終局面ではラスボス同士の対決に酔いしれるという、毎度お馴染みの展開を国民の多くが期待している。
高度成長期の日本社会は、新しいヒーローが誕生する爽快感と、システムや序列が守られることによる安心感をダブルで期待し続けてきた。そうした物語が生み出されやすい仕組みが巧妙に作られ、夏の甲子園と正月の箱根はその歴史を刻み続けることによって年々権威付けられ、現在に至っていると言える。
戦後70年以上が経過し、日本社会の価値観やシステムも大きく様変わりしてきたが、箱根を見ていると終身雇用や年功序列が機能していた時代の名残を強く感じる。
有名大学を経て中央省庁や大企業の中で地位を占める。そこに自らの存在価値を見いだしてきた中高年以上にとって、なんとなく懐かしく、居心地のいい感覚に浸ることができるストーリーである。
現実は甘くない。組織の歯車の一部として日々厳しい現実に晒されている中高年にしてみれば、正月くらいは過去の幻影に浸っていたいというところだろうか。
だが慰めを求めているのは中高年以上だけではない。一億総中流時代の幻想を今も引きずる日本人は多い。
少子高齢化の進行した社会が本格的に到来し、言いようのない閉塞感に包まれている。盆と正月くらいは、幻の中だけでもいいから一息つきたい、安心したいと思っているように見える。その表れが甲子園と箱根なのかもしれない。
今でもほとんどの有力選手は伝統校に進もうとする。どんなに自分に自信があっても、一匹狼で社会に認められるのは容易なことではない。
だが、今年の箱根でも今までとは違う流れを感じるところがある。
各校のエースが並ぶ花の2区で東洋大学の相澤晃が1時間5分57秒という区間新記録を樹立。さらに3区でも東京国際大学の1年生ヴィンセントが従来の区間記録を2分も縮めるタイムを叩き出した。

これまでの常識をひっくり返すような発想が箱根にも持ち込まれているのだろう。
重厚な伝統に彩られてきた箱根にも、従来の価値観やシステムが根幹から大きく揺さぶられるような変化の波が押し寄せている。
私の母校、東洋大学は11年連続で総合3位以内という抜群の安定感を誇っているが、今年は苦戦している。だが結果だけで一喜一憂するつもりはない。激動の時代に今とこれからをどう見据えてチームを作っているか。酒井監督と選手たちの哲学にこそ強い関心がある。
50歳の私にとっての箱根とは何か。旧い価値観、システムの中で生きてきたので、懐かしさや幻の安心感に包まれたくなるような感覚もあるが、大きな変化の波を受けとめつつ、自らの未来もデザインしていきたいと思う。
往路は青山学院大学の優勝!これから初詣に行ってくる。